能力主義はペテンなのか

 

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能力主義に代わる社会システムはあるのだろうか。学歴社会はさまざまな批判にさらされてきたが、少子化になっても受験競争の厳しさはほとんど変わっていない。従来の教育システムを批判して生まれたN高も今では有名大学に生徒を何名入学させたかを喧伝するようになった。
 

だが、近年、エリートの中でも能力主義に対する批判の声が高まってきている。その先鋒の一人、法学者のダニエル・マルコヴィッチは、能力主義が不公平を生み出し、デモクラシーの土台を壊していると警告する。
 

番組の司会者から、能力主義は機会均等を意味しており、誰にとっても公平なシステムではないかと聞かれると、彼はこう反論する。

 

「何が問題かというと、ある親はほかの親よりも、子供の教育にかけられる費用やその他においてはるかに優位な立場にいることなんです。将来、実績によって評価されるとしても、最も教育を受けた生徒は最も優秀な成績を収めるのです」
 

彼の指摘はもっともだが、それは今に始まったわけではない。学歴の高い親ほど子供の教育に熱心なのは誰でも知っている。しかしそれは批判されることではなく、むしろ称賛に値することではないだろうか。少なくとも彼らを叩いても自分の子供の成績が上がることはない。
 

例えば、日本でも有名なスティーブン・ピンカーの妻、レベッカ・ゴールドスタインは本も買えないほど貧しい家に生まれたが、週末は家族一緒に図書館に行くことが習慣だったそうだ。本人はプリストン大学を卒業して、今は哲学の教授になっており、彼女の兄弟達も医者などの職に就いている。だが、マルコヴィッチはごく少数の例外者ではなく、普通の人に合わせて制度を作るべきだという。

 


Is Meritocracy a Sham? | Amanpour and Company

 

彼の批判の矛先は大学にも向けられている。アイビー・リーグなどの有名大学には上位1%の資産家の子供が多く通っているが、それらの大学は税制面で優遇されてる。彼はこう説明する。

 

 「プリンストン大学が受ける免税を公的助成金だとすると、毎年、生徒一人につき10万ドル(約1070万)を与えていることになる。それと比較すると、州立のラトガース大学は毎年、1万2千ドル(約135円)、コミュニティ・カレッジのエセックス大学は毎年、2千5百ドル(約27万円)の公的助成金を受け取っています。つまり、プリンストン大学の資産家の子供たちが貰える公的助成金は、地元のコミュニティ・カレッジに通っている中流・労働階級の子供たちよりも四十倍多いのです」

 

アメリカの大学には世界中から優秀な留学生が集まっている。現在、アメリカとの対立が深まっている中国からも、毎年、大勢の若者が留学のために来ている。これはアメリカの大学のシステムが、世界のどの国よりもうまくいっている証拠ではないだろうか。

 

だが、彼は今の能力主義は大きな変革に迫られていると言う。なぜなら、現在のアメリカのような富の一極集中とエリートの特権がこのまま続くことはありえないことを歴史が証明しているからだ。

 

彼の解決策は、エリート大学の生徒の数を大幅に増やし、中流・労働者階級の子供たちを積極的に受け入れていくことだが、それでうまくいくのだろうか。

 

私は懐疑的だが、今のアメリカを見ていると、その方向に向かって進むかもしれない。